案内した方に教えていただいた中で、わたしの研究との関連でいちばん興味深かったのは、巨人フィンの物語でした。話をうかがった際には聞き取れないところや知らない単語もあり、以下の紹介では一部、教会付属の書店で購入した絵本や、その後調べたことをつけ足しています。
そのお話は…
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ルンド大聖堂の地下には、「石化した巨人がくっついた柱」がある。ルンド大聖堂のほとんどの部分はこの巨人が石を積んで作った。
ルンドで布教していたイタリア出身の聖ラウレンティウス(ルンドでは親しみを込めて聖ラーシュとも呼ばれる。話していただいた際には名前がなく「司祭」)に、巨人が「オレが教会を作ってやる。ただし、教会が完成するまでにキサマがオレの名前を当てられなければ、太陽と月、もしくはキサマの両目をいただく」と持ち掛ける。
「名前をあてるくらい簡単だ」と高をくくった聖ラーシュはその条件をのみ、思いつく限りの名前を唱え続けるが、教会が完成に近づいても、なかなか巨人の名前を当てられない。
太陽と月は無理なので、両目をなくすしかないと絶望したラーシュが地面に身を伏すと子守歌が聞こえてくる。歌っているのは巨人の妻イェルダで、「フィン父さんが明日には、聖人の両目を持ってくるよ」という内容だった。
この歌で巨人の名前が「フィン」であると知ったラーシュは、フィンが最後の石を積もうとしたまさにその瞬間に、「フィンよ、フィンよ、最後の石を置け」と言う。怒ったフィンは魔法で体の大きさを小さくして地下に飛び込み、柱を倒して教会を壊そうとする。その時朝日が差し込み、柱にしがみついたまま石化した。そこにやってきたイェルダと赤ん坊も石化した。
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建物内の写真の最初の六枚がフィン、次の五枚がイェルダと赤ちゃんで、イェルダはフィンより体が小さくて柱に手が回せないので、ひもを使ってしがみついています(絵本にはイェルダと赤ちゃんが石化した話はありませんでした)。
教会の外の椅子に書かれている"Finn, Finn...”は、「フィンよ、フィンよ、最後の石を置け」。
銅像になっている司祭さんはラーシュではなくヘンリク・シャルトー(Henric Schartau, 1757-1825)、スウェーデン南部の信仰復興運動に多大な影響を与えた宗教者だそうです。
絵本の解説によると、フィンの物語はロキが巨人をだましてアースガルドを囲む壁を作らせたという北欧神話の話のヴァリーエションで、16世紀ごろ完成し、各地に似たような話があるということでした。
北欧神話では…
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北欧神話では、神々と巨人が常に戦っている。ある時神々は自分たちの世界アースガルドの周りに防壁を作ろうとする。ある巨人(人間の石工に化けているとする話も)がやってきて、「自分が一夏で防壁を作る。それができたら美しい女神フレイヤを嫁によこせ」と言う。そんなに早くできるはずがないと高をくくった神々はその条件を飲むが、石工はすごい馬を連れていて、防壁はどんどん完成に近づいていった。あと一日というところで、ロキは一計を案じる(ロキは巨人出身だが神々の長オーディンと義兄弟の契りを結んでおり、良くも悪くも状況をかき回すトリックスター)。男性神のロキは雌馬に変身し、石工の馬を誘惑する。馬は仕事を放棄して雌馬(ロキ)を追っていき、あと少しのところで防壁は完成しなかった。だまされて怒った巨人は神々に詰め寄り、神々は巨人を殺した。ロキは石工の馬との間に八本足の馬スレイプニルを産み、オーディンに献上した。
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北欧神話は神々も巨人も野蛮なのですが、巨人フィンの物語では、「目玉をくりぬく」ような野蛮を巨人が、知恵と文明を聖人が担っている…というあたりがわたしの研究と関連するところ。数年後くらいにこれに関連した論文を書くかもしれないし、書かないかもしれないので、気長にお待ちください。