さかなのためいき、ねこのあしおと

スウェーデン滞在記。現地時間の水曜日(日本時間の水曜日午後~木曜日午前中)に更新します。

北欧の作家と訳者① ラーゲルクヴィスト

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先月は、4週間、気づけば祭のことしか書いていませんでした。学校も夏休みに入っちゃったので、ハプニング(?)が少なく、今週からは特に祭の予定もないので、なんだかグダグダになりそうな予感がしますが、こういうときこそ北欧文学を紹介するチャンス!ということで、今日は、ラーゲルクヴィストという作家を紹介したいと思います。作家を紹介する時点ですでにグダグダだという説もありますが、わたしには、日常の小さいことなどをオシャレに書く才能がないので、ご容赦を。

さて、もしも、「北欧文学で一冊だけ勧めるとしたら、何か?」と聞かれたら、迷わず挙げるのが、ラーゲルクヴィスト『バラバ』です。岩波文庫から、尾崎義の訳で出ています。わたしは最初、図書館で読んで、読み終わると同時に本屋に走ったのですが、当時は品切れ。さんざん古本屋で探して、ようやく見つけた次の月に、なんと復刊されました。現在は新刊が手に入ります。

タイトルであり主人公でもある「バラバ」は、聖書の登場人物です。イエスの処刑の際、ローマ総督ピラトは、イエスを殺したくなかったので、殺人や強盗をしたとんでもない極悪人のバラバと、イエスのどちらかに恩赦を与えることにし、どちらを釈放するべきかと民衆に問いかけます。民衆が「バラバを放せ!」と叫んだので、バラバは釈放され、イエスが処刑されます。

聖書にあるバラバの話は、これだけです。ラーゲルクヴィストの作品は、釈放されたバラバが、状況を理解できずにうろうろしていて、偶然、イエスの処刑を目にする場面から始まります。人の生死など気にしないバラバが、なぜかその処刑のことだけは心に引っかかり、イエスの信者や弟子たちと出会っていくのですが、バラバは何度も信仰に近づきながら、その都度、結局は放れていってしまいます。

ラーゲルクヴィストは、若いころ、社会主義者として一度はキリスト教を棄てるのですが、後年、再び信仰を取り戻します。寡作な人で、わたしはこの作品のほか、『巫女』(山下泰文訳、岩波文庫)と『アハスヴェルスの死』(谷口幸男訳、ノーベル賞作家全集所収)しか読んだことないのですが、神と信仰といったテーマが多く、西洋文化に興味を持ちながら、「信仰としてのキリスト教」にあまりなじみのないわたしのような者には、読んで損のない作品だと思います。

ちなみにこの作品、アンソニー・クイン主演で映画化されているようなのですが、原作にはなかった奴隷拳闘士になる話なんかがくっついているようで、こういうのは、やめて欲しいです。最後も微妙に違います。以下↓が、映画を紹介したページ。ページ自体は、なんだかすごいです。