さかなのためいき、ねこのあしおと

スウェーデン滞在記。現地時間の水曜日(日本時間の水曜日午後~木曜日午前中)に更新します。

クリスマス・マメ知識3~ブタの頭とブッシュ・ド・ノエル

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クリスマス・マメ知識、最後の話題は再び北欧です。前回ご紹介した「ルシア祭」は、非常に新しいお祭りで、それをいわゆる「伝統」にしていた西海岸地域でも、キリスト教導入(12世紀)以降に始まったものでした。

キリスト教導入以前、北欧では土着の神々が信仰されていたのですが、この北欧神話の神々の一人に、フレイという神様がいます。エルフたちの王で男前だと書いてあるのですが、常に金色の空飛ぶブタに乗って移動するので、カッコよさは半減です。神話の最初のへんに、「アース神族」と「ヴァン神族」が争い、アース神族が勝って、ヴァン神族はこれに恭順した、というような話が出てくるのですが、フレイは、恭順した側、ヴァン神族出身の神様です。

話が少しそれますが、多神教の神話には、往々にして、それぞれの神を奉じる部族同士の争いが反映されているとされています。つまり、負けた側の部族の神は、勝った部族の神を主神とする神話体系の中に、主神の子どもや部下として、場合によっては敵として組み入れられるわけです。ギリシア神話のゼウスの子どもたち(アテナ、アポロン、アルテミスなど)や、インド神話のインドラの永遠の敵アスラ(阿修羅)などが、その例です。

フレイも、そうした神の一人で、もともとは、太陽神であり、部族の最高神でした。その部族がアース神を信仰する部族に征服された後も、フレイの儀式の伝統は残り、12世紀までの北欧では、冬至の日に、丘の上で丸太に火をつけて海に落とし、その間にイノシシを一頭丸ごと焼いてフレイにささげ、食べていたそうです。火のついた丸太は太陽を象徴し、それが海に落ちることは、冬至における「太陽の死」と、それ以降の「太陽の復活」を示していました。

12世紀、森のイノシシが減少すると、家畜の豚で代用するようになり、これはやがて頭部のみを月桂樹やローズマリーで飾り、口にりんごやオレンジ、レモンなどをくわえさせるものへと変化していきました。『長くつしたのピッピ』には、頭の悪い女中がこのことを本で読み、何を勘違いしたのか、自分の頭に紙の飾りをつけ、口にリンゴをくわえて立っていたので、その女中はクリスマスのご馳走が食べられなかった、とピッピが語るシュールな場面があります。初めて読んだ時、いったい、勘違いしたからといって、りんごを丸ごと一個くわえることなどできるのか、ずいぶんと気になったものです。北欧産のりんごが小さいからできたのか、女中の口が香取慎吾並みに大きかったのかは、今でも気になるところです。

この風習は、16世紀にヨーロッパ全土に広まり、19世紀末まで続いたということです。
オランダも例に漏れずで、鎖国時代、出島のオランダ商館では、キリスト教禁制のため、クリスマスをおおっぴらには祝えないので、「オランダ冬至」の名目で、豚の頭を食べていたそうです。このパーティには、キリスト教の行事であることは伏せたまま、日本人も招かれており、林子平などが参加した記録が残っているそうです。

一方、丸太の方は、クリスマスのお菓子ブッシュ・ド・ノエルの起源になったという説があるそうです。

ということで、皆さん、お元気で、楽しいクリスマスをお迎えください。