さかなのためいき、ねこのあしおと

スウェーデン滞在記。現地時間の水曜日(日本時間の水曜日午後~木曜日午前中)に更新します。

『地主屋敷の物語』

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この学会のハイライトは、ラーゲルレーヴ『地主屋敷の物語』のお芝居のプレミア公演を見る、というものでした。車でしかいけない田舎の、小さな劇場でやるということで、正直、あまり期待していなかったのですが、これが、すばらしい舞台でした!!

実は、わたしはこれまで見たお芝居のうち、一番すごいと思ったのは、厳島神社の観月能『融』を除けば(これはすべてにおいて別格)、ベルリーナー・アンサンブルの『アルトゥロ・ウイの興隆』(ブレヒト作、ハイナー・ミュラーの演出に従ったもの。「日本におけるドイツ年」で東京に来たんです。他に、見た方いらっしゃいますか?)でした。ブレヒトミュラーもきらいなわたしには不本意ながら、役者の立ち居地や動き、せりふと何をとっても無駄がなくて(賢い男に弱いわたし)。でも、うれしいことに、わたしは今回の『地主』のほうが『ウイ』より気に入りました。

『地主屋敷の物語』は、1899年の作品です。ウップサラ大学の学生(かっこいい)と旅芸人の少女が出会う場面から話は始まるのですが、その後、学生は発狂し、牧師館に引き取られた少女も、そこでうまくいかずに病死します。しかし、少女の魂の、学生を思う部分が生きていたために、少女は墓の中で息を吹き返し、そこに通りかかった発狂した学生が、少女を墓から救い出す・・・という、書いてみるとわけ分からん話(当時ラーゲルレーヴはフロイトにはまっていたらしい)ですが、お芝居でうまいなと思ったのは、狂った学生とかっこいい学生を別の役者が演じていて、少女が迷うたび、心の中にいるかっこいい学生が出てきて助けてくれる、といった演出になっていたことです。最後、正気に戻った学生が狂気の自分を抱きしめる場面では、不覚にも泣きそうになってしまいました。終わったあとは、ものすごいスタンディングオベーションでした。

この作品には、『ダーラナの地主館奇談』という比較的新しい訳があり、ラーゲルレーヴ作品にしてはめずらしく新刊が手に入りますが、みじんのセンスも感じられないタイトルからも分かるとおり、ひどい訳なので、興味をもたれた方は、可能であれば、佐々木基一訳『地主の家の物語』を図書館などで借りて読まれることをお勧めします。

あと、この作品では、ウェーバー『魔弾の射手』が重要なモチーフとして出てきて、CDが欲しくなったので、どなたか良い演奏をご存じの方があれば、ご一報ください。

ちなみに写真は、お芝居のパンフレットと、スカンセン(来週紹介)の地主屋敷と、容量の関係で「ヴェルムランド4」に載せられなかった霧の写真です。