3月は、こんな文章を紹介したいと思います。
どのようにこまんか島でも、島の根つけに岩の中から清水の湧く割れ目の必ずある。そのような真水と、海のつよい潮のまじる所の岩に、うつくしかあをさの、春にさきがけて付く。磯の香りのなかでも、春の色濃くなったあをさが、岩の上で、潮の干いたあとの陽にあぶられる匂いは、ほんになつかしか。
そんな日のたくさいあおさを、ぱりぱり剥いで、あおさの下についとる牡蠣を剥いで帰って、そのようなだしで、うすい醤油の、熱いおつゆば吸うてごらんよ。都の衆たちにゃとてもわからん栄華ばい。あおさの汁をふうふういうて、舌をやくごとすすらんことには春はこん。
出典:石牟礼道子「苦海浄土 ゆき女聞き書」
春の初めには、必ず懐かしくなるのが、この文章です。情景が目に浮かぶ名文はたくさんあるけれど、磯のにおいがしたり、水の音がしたり、風が吹いたり、魚が糸を引く手触りを感じたりできる(わたしは魚釣りをしたことがほとんどないので、その手触りが正しいかはわかりませんが)文章は、石牟礼道子しかない!!というのが、わたしの見解です。
これを読んでて、むしょうに貝堀がしたくなりました。