さかなのためいき、ねこのあしおと

スウェーデン滞在記。現地時間の水曜日(日本時間の水曜日午後~木曜日午前中)に更新します。

ルーン碑文・おまけ~オーディン、ユッグドラシル、ラグナロク

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

先週からやたら、「オーディン」という名が出てきます。北欧神話については、今後も折に触れて紹介して行きたいのですが、今日は、この神様について、ちょっとだけ。…といいつつ、とてつもなく長くなってしまいました。

北欧神話は、古代神話らしく多神教ですが、オーディンは、そのうちで一番偉い神様です。今の北欧語ではOdin、古いアングロサクソン語でWodenとつづり、水曜日(Wednesday)の語源です。ちなみに、Tuesdayはチュール、Thursdayはトール、Fridayはフレイアと、英語(と、ドイツ語の水曜日以外)の曜日は、北欧神話の神様から来ています。

北欧神話は、ギリシア神話と比べられることが多いのですが、ギリシア神話の神々が不老不死で、世界が永遠なのに対して、北欧神話は、最後に世界が滅び、神々も全滅するのが、大きな特徴です。

北欧神話では、世界は巨大なトネリコの木「ユッグドラシル」からできています。この最上層に、神々の世界「アースガルド」が、中層に人間の世界「ミッドガルド」が、下層に巨人の世界「ヨーツンヘイム」が、最下層に死者の国「ヘル」があり、それぞれの世界は、虹の橋でつながっています。ユッグドラシルは、根がねずみに、葉が鹿にかじられ続けていて、いずれ倒れるようになっている上、巨人や死者たちが、神々を滅ぼそうとして狙っています。

したがって、神々の世界はいずれ滅びることになっています。その滅びの運命ののことを「ラグナロク」といいます。ちなみに、ラグナロクは、「神々のたそがれ」と訳されることが多いですが、これは、中世に「ラグナロク」が、「ラグナレケル」と取り違えて訳されたためで、正しい訳は、「神々の運命」です。

オーディンは、この滅びを免れようと、努力を重ねます。ルーンを読み解く術を得るために死にかけたこともそうですが、ほかにも、知恵の泉を飲む代償として、泉の番人ミーミルに自分の片目を差し出したりしています(このため、オーディンは、片目に描かれることが多いです)。ギリシア神話のゼウスが、地上に降りては女遊びをしているのに比べると、ずいぶんとハードボイルドです。

しかし、知恵を得た結果、オーディンは、自分たちは滅びる他ないことを悟ります。神々は、滅びの運命を受け入れて、悪い巨人たちと戦い、自分たちが死ぬと同時に全ての悪を滅ぼします。この戦いの中、巨人の放った火で世界は燃え尽き、今、手元に本がないので正確ではないのですが、エッダ『巫女の預言』によると、「太陽は消え、大地は海に沈み、天の星は落ち」て、世界は闇に包まれます(余談ですが、埴谷雄高『死靈』には、図書館に住み着いた男・黒川君が、この一節を暗証する場面があります)。

しかし、何日かたつと、再び新しい太陽が昇ってきて、巨人の火が届かなかった世界の果てで、新しい人間が目を覚まします。この人間が、現在の我々の祖先になった…というのが、とっても大まかですが、北欧神話の大筋です。

北欧神話について、興味をもたれた方は、とりあえず、以下の本を読んでみてください。

・パードリック・コラム『北欧神話』(尾崎義訳、岩波少年文庫)。上に書いたことは、大体この本を元にしています。児童向けなので、はしょってあることも多いですが、その分読みやすい、なにより、訳がすばらしい。挿絵も良いです。表紙の絵の女神イドゥンがめちゃかわいい。



・谷口幸男編訳『エッダ―古代北欧歌謡集』(新潮社)。我が大先輩(独文→北欧)、谷口幸男の名訳。上の本のような再話ではなく、エッダの訳なので、知識なしには少し読みにくいですが、解説がしっかりしているし、『巫女の預言』は、いくつか邦訳がありますが、わたしはこれが一番好きです。