さかなのためいき、ねこのあしおと

スウェーデン滞在記。現地時間の水曜日(日本時間の水曜日午後~木曜日午前中)に更新します。

烏vs鷹vs翁

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今いる研究室では、二週間に一度、みんなで集まって、30分程度お茶会があります。そこで、ニュースを伝えたり、新しい人を紹介したり。

4月のはじめに、ここでわたしも新入りとして歓迎されたのですが、この時、先生が、同じようにこの先生のところに留学しているアメリカ人の女の子を紹介してくれました。年齢は向こうが2歳上、研究しているのはわたしより20年位後の女性作家と、似たところが多く、しかも、同じ寮に住んでいます。誰にでも気が遣えるし、すごく親切だし、スウェーデン語もネイティヴ並みに上手いのにちっとも威張らないし、自分の性格が嫌になるくらい良く出来たお嬢さんで、仲良くなれて嬉しいです。

先週の日曜日、その子の部屋で一緒にお茶をすることになり、二人でまったりしていた時、事件は起きました。

外で烏がものすごい声で鳴き始めたので、すわなにことぞと二人で窓に駆け寄ってみると、ちょうど鳥が二羽、もつれ合いながら落ちていくところでした。そのまま車道と歩道の間にあった水溜りの中に落ちて戦い始めました。鷹と烏だったのですが、烏の方が不利らしく、鷹がすぐに烏をつめで組み敷き、胸のあたりをくちばしでつき始めました。さっきすごい声で鳴いていたのは、仲間の烏で、しばらく鳴きながら、地面の二羽の上を回っていたのですが、やがて飛んでいってしまいました。

すっかりパニクった友だちは、目を丸くしてわたしを見て、「彼は、あの鳥を食べようとしているのかしら?」。彼って言うんだ…と思いつつ、ほかに答えようがなかったので、「多分ね。どうしょう…?」。彼女、これには答えず、「彼は、…わたし、Hawkをスウェーデン語でなんていうのか知らないのよね…、彼は、あの鳥を食べようとしているのかしら?」。パニクっているのか、冷静なのか良く分からない友だちですが、「うん、そうじゃろうよ。」と答えたまま、わたしも固まってしまいました。

助けに行こうかと思ってみたり、でも鷹だってそうやって生きてるわけだからと思ってみたり。このまま見ていると、すさまじいことになりそうでしたが、だからといって、何事もなかったようにまったりしたお茶に戻るわけにもいきません。

道の向こうから、おばちゃんが、携帯電話で話しながら歩いてきたのですが、彼女もふと道端の塊に目を留めて、それが何か分かったとたん、携帯を耳に当てたまま固まってしまいました。

鷹の攻撃がだんだん一方的になってきて、もうだめかと思ったその時、手押し車を引いたおじいさんが、道路を斜めに横切ってやってきました。スウェーデンの高齢者が使う手押し車は、日本のよりも大きい車輪が4つ付いていて、取っ手は自転車のハンドルのように曲がっています。赤く青く色が塗ってあってスタイリッシュです。それを押して颯爽と歩いてきたおじいさんは、もつれ合っている二羽の鳥がちょうど両側の車輪の間に来るようにして上を横切っていきました。おじいさんが通って鷹が一瞬止まった隙に、烏はすたこらさっさと逃げ出したのですが、おじいさんは二羽には目もくれず、足も止めずに、携帯電話のおばちゃんに向かってちょっとうなずくと、そのまま行ってしまいました。

あとには鷹が、とても不満そうな顔をして歩道に立っていたのですが、歩行者が来ると、こちらも飛んでいきました。

再び友だちと目があったので、「結局、おじいさんが、最強じゃったね」とわたしが言うと、「ええ。おじいさんは最強だったわ。それにしても、烏がここにいるのは普通だけど、どうしてHawkがこんなところにいるのかしら?そうだ、Hawkをなんていうか、辞書で調べないと」と、英瑞辞典を取り出して引き始めたので、「Hawkは、スウェーデン語ではHökよ。高い(hög)みたいな感じの(初めて彼女にスウェーデン語を教えた!)。でも、あの鷹、小さかったね。烏とおんなじぐらいの大きさじゃったじゃ?」「そうね、言われてみれば、小さかったわ。子どもだったのかなあ。あら、本当だわ、見て、Hök。」「あっとった!イェイ!」「それで…鷹はあの鳥を食べようとしていたのかしら?」…彼女とわたしの差は、こういう日々の積み重ねから来るようです。イェイとか言っている場合ではありません。

というわけで、いつも以上にだらだら書いてしまったのですが、あまりにもオチがないので、だらだらついでに、『ニルスのふしぎな旅』の中から、わたしの好きなエピソードを一つご紹介します。

ニルスのふしぎな旅』は、ご存知、魔法をかけられて小人にされた少年が、空を飛ぶガチョウの背中に乗り、雁の群と一緒に旅をする話ですが、この雁の女隊長「ケブネカイセのアッカ」が、めちゃかっこいいです。ラーゲルレーヴは、特に人物描写に優れているわけではないのですが、強い老女を書かせると、右に出る作家はいません。

ラップランドで、若い雁たちが子育てをしている時、年を取ってもう卵は産まないアッカは、両親に死なれた鷲のヒナを発見します。アッカは、一度は、このままこのヒナを飢え死にさせれば、ほかの鳥を喰う悪い鳥が一羽減ると思って見捨てようとするのですが、結局、魚を取ってヒナを育てます。

ゴルゴと名づけられたヒナは、自分は雁でアッカは実の母親だと思って成長するのですが、ある時、自分は本当は鷲だと知ります。アッカはゴルゴに、鳥を食べないと約束すれば、ほかの鳥に嫌われようと、自分の群にいて良いというのですが、ゴルゴは、自分は鷲だから、鷲らしく、鳥も食べて生きていくといって飛び去っていきます。

ニルスのふしぎな旅』は、最初は作者が書き慣れていないせいか、3分の1ほどは正直イマイチなのですが、進むにつれて面白くなります。わたしはまだ読んでいませんが、去年福音館書店から完訳版も出ましたので、これからトライする方は、最初を我慢して、ぜひゴルゴのあたりまで読んでみてください。