さかなのためいき、ねこのあしおと

スウェーデン滞在記。現地時間の水曜日(日本時間の水曜日午後~木曜日午前中)に更新します。

ムーミンをさがせ!

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現在受講しているスウェーデン語のクラスでは、持ち回りで、スウェーデンに関する発表をします(もちろん、スウェーデン語で)。先週がわたしで、文学関係担当だったのですが、担当を割り振った学期はじめに、先生(手首に刺青、舌にピアスをしている)が、「毎年リンドグレーンについて聞いていて、もう飽きた!」と叫んでいた(気の毒なリンドグレーン)ので、わたしは、『ムーミン』の作者トーヴェ・ヤンソン(1914~2001)について話すことにしました。

リンドグレーンと同様、キャラクター人気が一人歩きした感のあるトーヴェ・ヤンソンですが、彼女は、お父さんが彫刻家、お母さんが画家、二人の兄弟も芸術家という、ボヘミアンな芸術ファミリーに生まれ、学生時代には、ストックホルムやパリで、本格的に絵の勉強をしています。本人は、油絵なども描く人なのですが、それ一本で食べていくのはやはり難しく、1929年、15歳のときに〈ガルム〉という雑誌で風刺画デビューし、1933年にドイツでナチスが政権を取ってからは、ナチスや戦争を風刺した絵を次々と発表します。2番目の絵は、1938年、ヨーロッパ諸国の宥和政策の結果、ドイツがチェコを併合したときのものです。「お菓子が欲しい」と駄々をこねるヒトラー坊やに、大人たちがスイスやらダンツィッヒやらを差し出しています。

ムーミンのキャラクターは、もともとヤンソンがプライベートな手紙の隅っこにサインと一緒に描いていたもの(最初は、大きな鼻があった)なのですが、このキャラクターが、1944年、〈ガルム〉に初お目見えします。一番上のハンドアウトの、上のほうに木の上にムーミンがいる絵があるのが分かるでしょうか?

これ以降、〈ガルム〉の風刺画の隅っこに必ず小さなムーミンが載るようになり、1945年には、『小さなトロールと大洪水』という、ムーミンを主役にした絵本が出版されます。また、ヤンソントールキンホビットの冒険』(『指輪物語』の前史)や、ルイス・キャロルふしぎの国のアリス』のフィンランド語訳の挿絵を付けています。これらの挿絵は、以下のホームページで見ることができます。

http://www.zepe.de/tjillu/index.html

…と、いうような話をしたのですが、こうした発表は往々にして、発表者は順番が回ってきたから仕方なく発表し、聞いてる側は、人がしゃべってるから、仕方なく聞くものです。ところが、今回は、「どこかに必ずムーミンがいる〈ガルム〉」を配った時点で、ギャラリーが異常な盛り上がりを見せ、「あっ、こんなところにムーミン!」という声が教室のあちこちから聞こえ、果ては、お菓子を欲しがるヒトラー坊やを演じる奴まで出てくる(学生「先生!先生!ぼく、この真似できます。『お菓子が欲しいよう!!』」先生「上手にできましたね」)という、わけわからん展開になりました。リュック・ベッソンの映画『キス・オブ・ザ・ドラゴン』には、戦っている時以外はひたすらウォーリーを探している殺し屋が出てくるのですが、ヨーロッパの人は、こういうのが好きなんでしょうか。

ホビット』や『アリス』の挿絵も含めて、先生も知らない話も結構あったらしく、帰り際、先生が追っかけてきてほめてくれたのはうれしかったです。