さかなのためいき、ねこのあしおと

スウェーデン滞在記。現地時間の水曜日(日本時間の水曜日午後~木曜日午前中)に更新します。

タンデム

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11月も末、ベルリンは、最高気温が1℃とか2℃とかの、寒風吹きすさぶ日が続きます。ノルウェーでは、「気温が寒い」とは言わず、「服が寒い」と言うそうですが、ドイツ人の防寒にかける情熱もものすごく、金髪のかわいい子が雪山で履くようなブーツで登校してきたり、乳母車の赤ん坊が寝袋状のものに包まれて、たらこキューピーみたいになっていたりします。日も短くなり、朝学校に行くときは、月がくっきりです。

さて、今日の話題は、「タンデム」です。もともとは、「二人乗り自転車」の意味ですが、お互いの言語を学んでいる外国人同士が、自国語を教えあうことも指します。

4月から留学したせいで一番困っているのは、大学のスウェーデン語の授業(の進度)です。夏学期には初級クラスがなく、2学期目の学生に囲まれて苦労したのですが、夏にスウェーデンに行った関係でそのコースの試験を受けられなかったため、「スカンディナヴィア科学生用」の3学期目に登録できず、今学期は、「スカンディナヴィア科学生用」の1学期目と、「スカンディナヴィア科じゃない学生用」の3学期目のスウェーデン語を受講しています。これらは、文法練習などはためになるものの、どちらもものたりず、しゃべる練習や書く練習はほとんど出来ないので、タンデムのパートナーを探すことにしました。

しかし、ドイツ語←→日本語ならともかく、ドイツでスウェーデン語←→日本語を探すとなると、なんとなく望み薄です。ところが、日本学科の図書館前に、「スウェーデン出身で日本語を勉強している人」を探す張り紙をダメモトで張ってみたところ、スウェーデン人は見つかりませんでしたが、スウェーデン語学習暦20年、スウェーデンに長期滞在すること数回、現在日本語学習中というドイツ人、ペトラさんとコンタクトを取ることが出来ました。

この火曜日に初めて会ったのですが、十代の子どもが二人いる女の人で、家も近く、とても親切な人でした。ネイティヴでないので、どうしても発音になまりがありますが、逆に、スウェーデン語や日本語では分からないこと(細かいニュアンスの説明とか)が、ドイツ語で分かりあえるという、大きなメリットがあります。本人が日本語の試験をひかえていたので、今回は日本語の方をたくさんしたのですが、「語学を学ぶとは、文化を学ぶことだ」ということを痛感しました。

日本で英語を学ぶ場合もそうですが、この頃の外国語学習では、文法や読解よりも、日常でよく使う表現をまず覚え、「会話が出来る」ことをまず目指します(ちなみに、ドイツ人向けの日本語の教科書は、初級用はローマ字表記で、ひらがなはある程度進んでからでてきます。ペトラさんは、漢字も100字くらい書ける、かなりの上級者です)。ところが、ペトラさんは、日本語会話の頻出表現「おそまつでした」とか、「何もありませんが」とか、「つまらないものですが」を使うことに、とても抵抗があるんですね。英語やドイツ語では、人に物をあげるとき、「つまらないものですが」とは絶対に言いません。それは、自尊心を傷つけもし、相手に対しても失礼に当たるわけです。…と、頭で知ってはいても、たとえばわたしも、ドイツ人に何かしてあげたりしてお礼を言われると、つい、「たいしたことしてないから」とか言ってしまい、怪訝な顔をされます(ついでに書いておくと、道を譲ってもらったりしたときも、ドイツ語では、「すみません」ではなく、「ありがとう」を使います)。

日本語の謙譲表現に関して、新渡戸稲造は『武士道』で、こんな説明をしていました。英語で、「これは良いものです」と言って人に物をあげるのは、「あなたは良い人だから、あなたにふさわしい良いものをあげます」という意味だ。一方、日本語で「つまらないものですが」というのは、「わたしは良いものを用意したが、あなたはさらに良い人であって、どんなすばらしい贈り物も、あなたにふさわしいほど良くはない」という意味で、相手を尊重しているという意味では、どちらも同じだ。

この話をペトラさんにしてみたところ、本人は「なるほど、それは相手を高めることなわけか」と、ノートに右肩上がりの矢印を書いて納得してくれたようでした。もちろん、納得するのと使えるのはまた別の話ですが、ちょっぴり異文化理解に貢献した気分になり、新渡戸稲造を改めて尊敬しなおしたのでした。