一枚目の写真を見て、「ピン!」と来た方、いらっしゃるでしょうか。映画『サーミの血』のポスターで主人公の背景にある場所の写真です。ウップサラのSkyttenaumと呼ばれる建物です。
http://www.uplink.co.jp/sami/
ちなみに、オリジナルの写真の背景はラップランド。
https://www.imdb.com/title/tt5287168/mediaviewer/rm537135360
主人公は表情から見て同じ写真のようですが、日本版は血色がよくなり、髪の乱れも少なくなっていますね。
集中講義では映画『サーミの血』(Sameblod, 2016)を扱いました。ブログ読者には未見の方もいらっしゃるため、ネタバレはしませんが、映画の中でウップサラは重要な役割を果たします。今回のウップサラ滞在では、映画に出てきた場所を探し当て(正確に言うと思っていた場所と一緒かどうか確認し)、授業でそれらの場所が出てくる意義を少し考察しました。
とは言え、映画は2月に見たきり確認できなかったのと、時間があまりなかったのと、それらの場所の一つリンネ庭園は閉まっていたので、ひどく不完全な足跡めぐりとなりました。
映画の57分目くらいで、主人公がウップサラに着いて最初に出てくるのが1~6枚目のSkyttenaum。持ち主がウップサラ大聖堂と自分の家をまっすぐつなげるよう、17世紀に建てられた建物です。
ここから主人公が(おそらく)歩いたであろうルート(7枚目)に沿って写真を撮ります。
この後主人公はリンネ庭園(地図のThunbergsvägen)に行くのですが、今回は営業時間が終了していて入れませんでした。
8枚目の丸いドーム屋根もウップサラ大学所有の建物ですが、映画には出てきません。
9枚目はウップサラ大聖堂で、映画ではイェイイェル像を眺める主人公の背後にちらりと出てきます。
10枚目以降の写真はウップサラ大学のメイン校舎周辺。
13枚目・15枚目の銅像は、エリック・グスタフ・イェイイェル(Erik Gustaf Geijer, 1783-1847)の像。ウップサラ大学歴史学科の教授を務め、「スウェーデン・ナショナリズムの父」と呼ばれたロマン主義の詩人・思想家です。後ろに見える建物がウップサラ大学のメイン校舎です。映画では、この階段に主人公が座っている場面が何度か出てきます。
この周辺には、ヴァイキング時代の「ルーン石碑」がいくつかあります。
映画に出てくる景色は1回目がここまで。
次に、わたしが通っていた文学部の建物を経由して、図書館(カロリーナ・レデヴィーヴァ)に行きます。
メイン校舎の裏にはWilliamsという、いつもみんなで飲みに行っていたお店があります。そこを通り抜け、道路を渡ると文学部の建物があります。茶色い建物で、行ったときは工事の足場が組んでありました。この建物は中庭を挟んでエントランスや受付がある白い建物と、文学部図書館が入っている灰色の建物とつながっています。留学中にわたしが主に使っていたのはこの図書館でした。建物の中には、カードがないと入れない部分と誰でも入れる部分があります。
この建物の裏に、大学のメイン図書館があり、それが、Carolina Rediviva(カロリーナ・レデヴィーヴァ)と呼ばれています。その裏手には名前の由来となったカール王の胸像(24枚目)が。
ウップサラには丘が二つあり、図書館は一つの丘の上、もう一つの丘の上にはウップサラ城(25枚目)があります。図書館を正面から見て(25枚目)坂を下ってウップサラ中央駅に向かいますが、この坂の途中には作曲家のグンナル・ヴェンネルベルイ(Gunnar Wennerberg, 1817-1901)と、ヴェンネルヴェルイの曲にちなむ「グルンタルネ兄弟」の碑が立っています。
今回はカロリーナ図書館に入れなかったので、映画で1時間30分付近から出てくる図書館がここなのか確認できませんでしたが、25分目くらいから主人公が音読する観光ガイドブックには、ウップサラ城とカロリーナ図書館についての記述があります。
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映画の中でウップサラが出てくることは、映画の中で描かれている差別の構造が、ウップサラ大学を中心とする知の体系と不可分に結びついていることを意味しています。
ウップサラ留学中にこの道を毎日歩いたわたしもまた、この問題の傍観者ではなく当事者です。わたしに知識を提供したウップサラ大学や、人類学をはじめとする人文学や、わたしの仕事の糧であるスウェーデン語・スウェーデン文学は上記の知の体系に属すものだからです。
あるいはわたしたち「北欧スウェーデン」のファンは、サーミの土地を収奪し、国境で分断し、衣装「コルト」や音楽「ヨイク」といった文化を観光資源化した結果として提示される「北欧スウェーデン」を美しいと思うことの罪を突きつけられています。
好き嫌いは別として、「北欧」「スウェーデン」に興味がある方は、一度は見る価値のある映画です。