さかなのためいき、ねこのあしおと

スウェーデン滞在記。現地時間の水曜日(日本時間の水曜日午後~木曜日午前中)に更新します。

ストックホルム6 リンドグレーンの家

まず最初にニュースです。7月23日~31日まで、BSプレミアムで北欧特集をします。
 
 
わたしもついに地デジ化。といっても、チューナー内蔵のDVDレコーダーを買って、テレビはそのままなのですが。
 
さて、長く続いたストックホルム特集も、今回が最終回。といっても、何か特別なことをするわけではなく、例によって例のごとく、リンドグレーンを熱く語ります。既に、3回取り上げているので、もういいような気もします…。
 
 
わたしが「スウェーデン」という国名とか、「その首都はストックホルム。通貨はクローナ」とかを知ったのは、リンドグレーンを通じてでした。こんなことを書くと歳がばれますが、わたしが小学生だった80年代の田舎というのは、まだ今ほど国際化していなくて、当時のわたしが知っていた外国の名前はアメリカと韓国とスウェーデン、都市名はパリとストックホルムでした(笑)。ちなみに、最初に知った外国の大学名はウップサラ大学でしたが、これはアンデルセンを通じてでした。
 
ストックホルムは、『やかまし村の子どもたち』の中で、学校の先生が休暇中に訪れ、生徒たちにキャンディーを買ってくる、という文脈で出てきます。「わたしがストックホルムのキャンディーを食べたのは、これが初めてでした」という文章は鮮烈で、多分主人公が抱いていた子どもなりの都会への憧れというものが、わたしの中でも、今もこの都市に対しては、強烈に残っています。今回、スウェーデン人の友だちにその話をしたら、「東京の方がずっと都会じゃん!」と突っ込まれて、目からウロコでした。ちなみにストックホルムの人口は75万人で、日本だと、那覇とその周辺自治体を合わせたくらいです。広島市だって、当時から100万都市だったし。そもそも、スウェーデン全体の人口が600万人で、神奈川県の人口くらいなんですね。そういうことを知っても、やっぱりわたしの中では、ストックホルムは「憧れの都会」です。
 
さて、リンドグレーンは、19歳だった1926年から、94歳で亡くなる2002年まで、ストックホルムに住んでいました。作品には多く、ストックホルムの実在の場所が登場します。たとえば、最初に住んでいたヴルカヌス通りの家は、『屋根の上のカールソン』シリーズの舞台に。
 
また、リンドグレーンは、1941年から亡くなるまで、60年以上にわたってダーラ通りのアパートに住み続けますが(ちなみに、『ピッピ』出版は1946年。わたしは、成功した作家がぜいたくな暮らしをするのが悪いことだとは微塵も思いませんが、税金を102%取られるほど売れても同じところに住み続けるリンドグレーンは、とても堅実だと思います)、その前にあるヴァーサ公園には、『ペーテルとペトラ』に登場する双子の小人ペーテルとペトラが住んでいます。
 
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▲赤いファサードの2階がリンドグレーンの家
 
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▲プレートが貼ってあります。
 
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▲この扉の前に立つと、リンドグレーンが出てくるんじゃないかと期待してしまいます。
 
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▲その前に広がるヴァーサ公園
 
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▲写真が小さくて分かりませんが、白いプレートには、「リンドグレーンのテラス」と書いてあります。
 
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▲きっとリンドグレーンも座った椅子。もちろん座りましたとも!
 
それから、筋肉モリモリのストリンドベルイ像があるテグネル公園は、『ミオよ、わたしのミオ』の主人公が、「はるかな国」に向かった場所です。ここには、リンドグレーン銅像もあり、『親指こぞうニルス・カールソン』などの主人公の絵や銅像があります。ちなみに、公園の名前の由来であるエサイアス・テグネル(Esaias Tegner, 1782-1846)の銅像はありません!
 
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▲この道の向こうにストリンドベルイが。リンドグレーンとストリンドベルイはお互いに背を向けあっています。
 
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▲木の幹のようなリンドグレーン。向かって右にしゃがんでいるのは『ミオよ、わたしのミオ』の主人公。肩のあたりを飛んでいるのは『うすあかりの国』のリリョンクヴァストさん。向かって左側に立っている二人は、双子の小人、ペーテル(男の子)とペトラ(女の子)。
 
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▲今日は四方八方からとった像をみんな載せちゃいますよ!彫ってある文字は、『ペーテルとペトラ』の一節。Peter och Petra bor i Vasaparken. Vi tillhör småfolken sa Petra.(ペーテルとペトラはヴァーサ公園に住んでいます。わたしたちは小さい民の一員なの、とペトラは言いました(訳はわざと直訳調にしてあります))
 
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▲後ろから見た図。背中には、『うすあかりの国』の文章が彫ってあります。Herr Liljonkvast tillhör skymningsfolket. Han bor i skymningslandet. Det kallas också landet som icke är.(リリョンクヴァストさんはうすあかりの国の民の一員です。彼はうすあかりの国に住んでいます。その国は、存在しない国とも呼ばれています。)存在しない国=ユートピアネバーランドスウェーデン語版ですね。
 
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▲背中の右側。Kom snart igen. Allrakäraste syster.(すぐに来てね。だいすきなおねえさま)ということは、この馬とバラの茂みは『だいすきなおねえさま』のなんですね。子どものころは良さが分からず、大人になって読むと病みつきになる作品。
 
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▲Ylva-liというのは、『だいすきなおねえさま』 の妹の名前。「イルヴァ=リー」と何度も言うと、その名前のすてきさが分かる、というくだりがあるので、そのあたりを再現したものと思われます。下には、Ylva-li bor under Salikons rosen.(イルヴァ=リーは、サリコンのばらの下に住んでいます)と書いてあります。
 
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▲後ろのあずまやもすてき
 
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▲じっくり見たところで、リンドグレーンに見送られつつ、公園を後にしました。
 
このブログを書いていて気付いたのですが、この公園の像は、コンセプトがちゃんとあって、それは、「日常世界と「はるかな国」の境」です。3作品の原文は、すべて、「非日常世界の者」が、「どこに住んでいるか」を含んでいて、それは、日常世界の住人の視点から描かれています…とやっていると、論文一本書けそうなので、ここまでに。ちなみに、今のところリンドグレーンで論文を書く予定は、今のところありません。
 
なお、今日タイトルが出てきた作品のうち、『ミオ』は単行本、その他は、『親指こぞうニルス・カールソン』という短編集に収録されています。リンドグレーン作品集の中で、岩波少年文庫に入っていず、アマゾンにも一件もレビューがないというマイナーな本ですが、わたしは、1冊だけリンドグレーンを勧めろと言われたら、絶対にこれを勧めます。今日紹介した中にはありませんが、『五月の夜』は、スウェーデン文学の中で5本の指に入る名作です。
 
ちなみに、リンドグレーンは、2014年に、スウェーデンのお札になるらしいです。わがラーゲルレーヴはお役御免です。「反社会的」で、ノーベル文学賞を噂されながら縁のなかったリンドグレーンがお札になるのは、複雑なような嬉しいような。
 
 
ストックホルム特集は、これで終わりです。次回からは、またウップサラに戻ります。3度のストックホルム訪問記が4か月がかりという仕事の遅さなので、残りの滞在期間はあと2週間ほどですが、あとどれだけかかることか…。末永くお付き合いいただければ幸いです。
 
なお、次週はHP更新のため、ブログ更新を休みます。次回更新は、8月5日(金)の予定です。今回のHP更新では、トップページにロゴを付けるなど、普段更新しない箇所もリニューアルする予定です。お楽しみに!