オペラの公式ウェブサイトはこちら。
Herr Arnes penningar
▲ポスターは何と人気のイラストレーターのヨハン・エーゲルクランス!北欧神話の本を出しており、ストックホルムで開催中の「妖怪展」では、日本の鬼や山姥、雪女なども展示しています。
JOHAN EGERKRANS – Johan Egerkrans Shop
オペラは18時開演ですが、前日に雪が降ったので、1時間くらい早く着くつもりで出発。暗く見えますが、15時半ごろにウップサラ中央駅からストックホルム行の電車に乗りました。
車窓の風景です。少しでも明るいうちしか撮れません!
ストックホルム中央駅に着きました。
▲美容院
▲結局かなり早く着いたので、雪景色を撮影しようかと思ったのですが、あまりに寒いので早めのご飯を食べることにしました。オペラハウスの向かいにある中華屋さん。ルーローハン、とてもおいしかったです!この写真では見えませんが、下にご飯が敷いてあります。
お腹も満たし、体も心も温まったので、オペラ座に向かいます。
▲入り口
▲中に入るとこんな感じ。カモメと船は今回のオペラに合わせたディスプレイです。
▲場面写真。
▲『巨人フィンの物語』の中の『進撃の巨人』論でカモメを扱ってから、カモメを見ると激写してしまう。
オペラの開演まで、飲み物を飲みながら待ちます。
▲通はシャンパンを飲むのですが、アルコールが入るとリスニング率が下がるのでコーヒーを。
ここからオペラの感想です。
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『アルネ師の宝』(原作は1904。今年は大還暦)は、16世紀に起こった牧師一家強盗殺人事件がモチーフです。作品の主人公は一人だけ生き残った養女で、漁村に引き取られて成長し、スコットランド人と恋に落ちます。しかし、恋人の正体は、強盗の一人でした。主人公が恋人と一緒にスコットランドに渡ろうとしたところに、殺された姉の幽霊が出てきて主人公に真実を告げます。主人公は(姉の助言に気づかないふりをして結婚する選択肢もありながら)、恋人を拒み、元恋人は主人公を人質に取って逃げようとしますが、主人公が自分に突き付けられた刃物を使って自殺したために捕縛されます。
わたしはセルマ・ラーゲルレーヴ学会の会員なのですが、この学会の年次大会は、毎年、ラーゲルレーヴの劇を専属でやる劇団「西ノース劇場(Västenås teater)」の演劇鑑賞がセットになっています。このブログではまだ紹介できていませんが、その演目も『アルネ師の宝』でした。
Herr Arnes penningar
なのでどうしても比べてしまうのですが、どちらも100%聞き取れたわけではないので、思い違いがあるかもしれません。
上記の通り、原作からして救いのない話なのですが、8月の舞台は、姉の幽霊がどこかコミカルだったり(休憩時間中に外で衣装を着けたまま俳優さんが休んでいて、目があったときに笑顔で返してくれたことも大きい)、殺人犯も正体が分かるまではユーモラスな場面があったり、なにより、主人公を育てた漁村の人たちに温かみがありました。主人公の自殺シーンは、事件の後で無気力になってしまった主人公が、最後に自分の意思を持てました、という演出になっており、その後の姉とのダンスシーンにはカタルシスがありました。
今回のは、漁村の人たちもさばいた魚の血をべっとりつけたエプロンで登場し、殺人犯は「ザ・男の暴力!」みたいな演出、後半では姉の幽霊が命乞いをしながら殺される場面を再現する際に、「わたしは死にたくない、ちゃんと納得できる時が来てから死にたい!なんのために生きてきたの!」と絶叫します。残酷に殺された姉はもちろん、家族を奪われ、おしゃべりな性格や楽しいと思う感情も奪われ、性的にも搾取された主人公が、何のために生きてきたのか分からなくなりました。自殺シーンも、姉の心臓を刺したのと同じナイフで殺されることで、姉と同じになれるという演出で、そこにカタルシスはありませんでした。
8月の舞台を見たときに、わたしは、「ああ、この話は、男の暴力とシスターフッドがテーマなんだな」と(勝手に)解釈したのですが、今回のオペラは「シスターフッドとパッションと悲惨な突然の死についてのオペラ(En opera om systerskap, passion och ond bråd död)」と副題がついています。
ラーゲルレーヴが「幽霊もの」と呼んだ作品をシスターフッドの物語として理解するのは近年の要請にマッチしたものですが、それが、女性同士手を取り合って幸せになろう、ではなく、自分は殺されたのにあなただけ幸せになることは許さない、という姉の意を汲んで、何のために生きて何のために死ぬのか分からない自殺をする、暗いシスターフッドを描いた点が、すごく興味深かったです。上記の『進撃の巨人』論では、女性人物が、主体的に人を殺したり、罪を犯したり、世界を滅ぼしたりする、責任ある存在として書かれることを、同作におけるジェンダー平等/女性解放として論じたので、ああ、この方向性は悪くなかったなと思った瞬間でもありました。
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▲終演後のご挨拶。殺人犯と手をつなぐ主人公。
▲片付けの風景。この舞台は面白くて、波の間にオーケストラが座り、装置を動かす人も客席から見えるように操作していました。
船がありますが、これは、舞台の終盤で、船が遠ざかるのを、上の方に行くことで表現したのを、終演後に船の位置を戻している途中です。
この船は、犯人が乗って逃げるはずだったのですが、犯人は捕縛されて、この船に乗れませんでした。『ムーミン谷の11月』のラストシーンとちょっと演出が似ているなと思いました。
終わったので、地下鉄で帰ります。
▲電車の継ぎ目からポスターがのぞき、ちょっと面白かったので撮りました。
▲ウップサラ中央駅に戻りました。
▲めちゃくちゃ寒い!